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![]() 2007年8月 「移転価格」対策を活用したグループ管理の再構築 Page3 4.組織横断的な部門の設置こそ連結グループ経営の鍵 一方、欧米企業の本社税務部門は、経理・財務とは別に単独の部門として設置されている場合がほとんどである(図表1)。 図表1■ 欧米企業における国際税務組織のグローバル展開イメージ図
人数的にも、本社内に数百人の税務専門部門を抱えている企業も少なくない。本社国際税務部門はCTO(Chief Tax Officer)のもと、プランニングやコンプライアンス、あるいは国際税務戦略やM&A関連業務といった税務業務ごとにグループわけされており、それぞれに専門スタッフが配属されている。 日本企業の本社税務部門に比べ特徴的なのは、国際税務を専門とする「国際税務部門」が設置されていることである(図表1における「Int'l Tax Dept.」)。この部門は、申告書作成業務等コンプライアンス業務等についてはまったく従事せず、国際税務を中心とした実効税率最適化に関する業務のみを専門とする部門である。部門の呼称等についてはさまざまだが、他部門や各国子会社税務部門とも連携して、グループ全体の実効税率最適化を専門とする部隊との位置づけとなっている。専門スタッフの人数も、自国案件対応部門より多く配属させていることが多い。また、各国に所在する関連子会社の中にも、本社税務部門同様、コンプライアンス業務を専門とする「自国案件対応チーム」と「国際税務チーム」が存在している。 関連子会社に設置された国際税務チームは地域ごとに区分され、それぞれの地域を統括する地域税務担当が任命されている(たとえばアジア地域であれば、オーストラリアやシンガポール子会社の中にある税務部門の国際税務チームのチームリーダーがアジア地域における地域税務担当になる場合が多い)。 したがって、欧米企業の税務部門の中で自国案件に関与するチームは、それぞれが単独で業務を遂行しているため、組織内における縦・横の連携があまりない点は日本企業の税務部門と類似した組織構造となっている。ただし、本社の国際税務部門については、地域税務担当を介し、各国の国際税務チームと連携して業務遂行にあたると同時に、CTOが存在していることで、組織の横連携も可能な組織構造となっている。 5.海外子会社にまで影響を及ぼす強い責任と権限を有する役職が不可欠 一般に、CTOは、国際税務戦略を策定し実行することを通じて、グループ全体の実効税率の低減を図ることを第一の目標としている。この目標を達成すべく、事業戦略策定業務への関与ならびに他部門との調整等を主業務とし、グループにおける経営資源の調達と配分を、主に税務の観点から、グローバルかつ継続的に最適化することについての重要な役割を担っている。 CTOは、本社の国際税務部門を実行部隊とし、各国関連子会社に置かれている国際税務チームと連携して、実効税率の最適化を推進している。CTOの支配下に設置されている国際税務部門は、グループ全体の移転価格ルールの策定や税務上の観点から適当な工場建設先国の選定等に関するグループの国際税務戦略に関する政策立案を行い、各国税務チームを通じて、その実行に努めている。国際税務部門は、自国組織を超えた他国の税務部門に対し税務戦略の実行を指示する立場にあり、また各国関連子会社内の国際税務チームは、地域統括担当を通じ、業務報告等を国際税務部門に伝える義務を負う。 なお、国際税務部門と各国国際税務チームとの間に設置されている地域税務担当は、国際税務部門の指示のもと、当該地域内のキャッシュ・マネジメントを税務的観点から管理する役割を担っている。また、担当地域内の各国税制度に関する情報収集や各国国際税務チームから報告される個別の税務問題についても対応が求められており、必要に応じ、各国国際税務チームと共同で業務を推進している。 また、各国国際税務チームはコンプライアンス業務等自国内の税務業務には従事しておらず、地域税務担当と共同で移転価格税制対応業務、あるいは税務的観点から当該企業の配当政策やキャッシュ・マネジメントに関する意見・指示を行っている。なお各国の国際税務チームは、組織としては当該子会社内に存在するものの、当該子会社の社長等に対する業務報告等の義務は課せられておらず、実質的に本社国際税務部門のラインに属しているといえる(マネジメント上の地域統括会社や税務上の観点から設立される中間持株会社と当該地域税務担当が所属する組織は、必ずしも同じ会社である必要はない)。 以上、税務部門という特定の部門の組織構造を、主に指揮命令系統、報告関係等の観点から論じたが、これは何も税務部門に限った話ではない。形の上では連結経営を標榜し、型式的には製品別事業部制を敷いたところで、一つの意思を全体に伝える強い権限をもった部門や役職を設置しない限り、グローバルに展開する組織を動かせるはずがない。したがって、必要とする人間・部門が存在しない以上、前記のような資本関係、取引関係、報告関係等グループ企業の関わりが示されている組織図が本邦企業には存在しえないのである。 なお、本稿では論じないが、海外子会社の数が増加し、海外子会社相互間を含めた水平・垂直分業体制が採られている場合などには、国内外の事業全体を統一的に捉える経営情報の収集も不可欠である。 6.移転価格と海外子会社業績評価制度 グローバル経営では、製品事業ごとに国内外の事業を統一的に捉える必要があるが、これに対する組織面での回答が、製品別事業部制あるいは地域別事業部制の採用であった。前記のとおり、海外生産比率が上昇するに伴い製品別事業部が生産・販売をグローバルベースでの連結で責任を負う組織構造が選択された結果、90年代半ば頃より、業績評価制度も連結での業績評価制度を採用するようになった。グローバル経営における業績評価制度の論点・課題は多々あるが、本稿では、特に移転価格への対応策導入後に発生する海外子会社の業績評価制度の問題を論じる。 移転価格とは「同一の企業グループに属する異なる企業間で製品・サービスが移転される場合に用いられる取引価格」である。このような製品・サービスの価格は、あくまでも関連する当事者国の税制の枠組みの中で決定されることから、結果としてそれぞれの企業が報告する売上、費用、利益がゆがめられる危険性がある。そのゆがみが、業績評価や資源配分に関わる意思決定に影響を及ぼしかねない。業績評価の観点からみると、売上、費用、利益のゆがみによって、価値が実際にどこで創出されたのかを把握するのが難しくなる。 理論的に考えれば、たとえば川上にある会社の売上が製品価値に比べて著しく少ない場合、川上の会社の利益は低く、川下の会社の利益が高すぎるというかたちで業績評価がゆがめられることがある。業績評価がゆがめられた結果、各会社が利益計画や事業行動を変更し、結果的に資源配分をさらにゆがめてしまうことがある(たとえば、川上の会社が生産する製品に対して十分な評価を得ていない場合、川下の会社に供給する製品の生産量を増やすインセンティブは小さくなる)。さらに、各会社の利益に好都合な決定を下すことで、グループ全体の利益が低下してしまうこともある。 各会社の決定権限が移転価格に依存する限り、些細なゆがみが、自社内で製品を売買するかどうか、原料を外部から調達するか内部から調達するか、もしくは製品を製造するか購入するかという判断にも影響しかねない(別のいい方をすれば、事前に合意された移転価格にかかわらず、それに基づいて責任を全うしていれば、当該企業の責任者はいっさいのペナルティを受けるべきでない)。したがって、移転価格税制対応策導入後の業績評価制度には注意を要する。 さらに実務的な問題として、たとえば利益ベースの独立企業間価格で移転価格が設定された場合、海外販売子会社がいかに営業努力をして売上を伸ばしたとしても、営業利益率は移転価格で設定された範囲内でのみしか改善しないといった問題も生じ、特に現地採用の社長の業績評価の方法等に頭を悩ませている企業も多いことだろう。 そのような場合の業績評価の考え方を示唆するために、ここで移転価格税制対応策導入後の日本および欧米企業における業績評価制度を比較検討してみよう。 日本企業の場合、子会社の財務会計上に記載されている数値(たとえば、売上高、営業利益等)をもって業績評価指標とし、対前年度、あるいは対予算達成度に応じて業績目標を設定している場合が多いと思われる。また、親会社であろうと事業部門であろうと子会社であろうと、基本的にはグループ内企業に対しては、同様の考え方、同様の業績評価指標・管理方法を用いている。一方、欧米企業の場合、財務会計とは別に、管理会計上での業績管理を設定している場合が多い。また、業績評価指標については、複数を複合的・総合的に用いているのが一般的である。 欧米企業における海外販売子会社の管理指標は、おおむね次の3パターンに大別できるものと思われる。 パターン1 管理会計上の仕入原価を設定する(図表2)。 図表2■ 移転価格対応策導入後の海外販売会社の業績管理の考え方 ![]() 各製品について実際の移転価格とは別に管理会計上の仕入原価を設定し、その仕入原価をベースに販売子会社のパフォーマンスを測定する方法である。利点は移転価格のいかんによらず、販売子会社のパフォーマンス測定が可能となることである。なお、この管理会計上の仕入原価を製造子会社における実際の原価等に基づいて設定した場合、販売子会社の収益は、グループの連結収益への貢献度を表す指標となり得る。また、この仕入原価を他の販社にも用いれば、グループの販社間での相対的貢献度の測定の方法にもなり得る。 一方、欠点としては、原価の設定方法いかんによっては、販売子会社に原価情報が開示されてしまうことである。 パターン2 売上高およびSG&A項目の組合せで管理指標を設定する。指標例として、(1)売上÷SG&A、(2)売上・SG&A、(3)売上÷人件費、等が挙げられる。 利点は、移転価格いかんにかかわらずパフォーマンス測定が可能であることである。また、他販社との比較も可能となる。一方、欠点としては、連結収益への貢献度が不明瞭であること、また、製品ごとの収益力比較が困難なことである。本指標によってはグループ全体への貢献度が明確とならないこともあり、管理会計目的というよりも中長期インセンティブ金額決定のための指標として用いられている場合も多い。 パターン3 個別管理指標を設定すること。指標例として、(1)売上高、(2)SG&A(およびSG&A項目)等が挙げられる。利点は、移転価格いかんにかかわらずパフォーマンス測定が可能なこと。また、他販社との比較も可能なことである。一方、欠点としては、対前年度比、あるいは対予算比が中心となり、さらに売上高とSG&Aが別々に評価基準となることで、マネジメント意識と直結しない可能性が高いことである。 なお、最後に2点、業績評価の観点からコメントを付け加える。 1つは、グローバル経営を行う企業の子会社業績評価は、当該子会社が属する事業セグメントに対する貢献度合いで評価する以外の方法はないということである。得てして海外子会社の業績評価を、当該子会社を独立した企業であるかのような評価制度・評価目標設定をしている企業が見受けられるが、そもそも業績評価とは、企業全体の目標・戦略の中で論じられるべきものであって、企業全体の目標達成のためにドライブをかけるツールでもある。したがって、評価対象子会社が、企業あるいは事業全体の目標・戦略を実現する際にどのような役割を担っているかによって業績評価指標の設定等を行っていく必要がある。 2つは、単に定量的な評価のみならず、中長期的な視点からの評価も制度の中に織り込んでいくべきであるということである。たとえばバランス・スコアカードのような制度の導入も視野に入れるべきであろう。 |