
2004年8月
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移転価格税制とロイヤリティ −グループ内損益配分モデルの活用
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本稿は、「旬刊経理情報」(2004年7月20日号/「特集 海外子会社投資をロイヤリティで回収する」)より転載したものです。
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ロイヤリティは移転価格税制上もっとも重要な取引のひとつとなっている。ここでは、その性格、算定方法について論述し、二重課税リスク防止のためのポイントについても検討する。同時に、特にロイヤリティが企業グループ内の損益配分構造に与える効果もあわせ検討し、最適なグループ内損益配分・キャッシュフロー実現の観点から典型的取引構造を概観する。
移転価格税制におけるロイヤリティ
各国における税制整備の段階から、ロイヤリティは移転価格の重要な中心課題のひとつであった。現在でもその状況は変わらず、税務プランニング、事前確認、税務調査、相互協議といった各場面でロイヤリティは重要な役割を演じ、数多くの法規、議論の対象となっている。移転価格税制におけるロイヤリティは通常無形資産の使用料として性格づけられるが、定義そのものにさしたる重要性がおかれることは少なく、むしろその取引を通じてのグループ企業内の利益配分・所得移転の適正性が問題となる。
ロイヤリティの本源である無形資産は企業損益上のリスクに結びついていることが多く、結果的には、ロイヤリティ取引を通じて、グループ損益上のリスクテーカーが明確にされることが多い。つまり、経済実質的に、どのような無形資産であるのか、どのようなリスクと関係しているのか、誰が実質的な所有者であるのか、その対価はいくらであるべきなのか、そしてその結果どのような損益配分、リスク配分が実現されるのかが移転価格税制におけるロイヤリティの中心課題となるのである。本稿では、このように、無形資産が生み出す損益のグループ間配分の一手段としてのロイヤリティの側面にも焦点をあて、企業グループ間取引に関わるリスクマネジメント、キャッシュフロー最大化のための問題点と対応策について検討する。
なお、移転価格税制は各国共通するところも多いとはいえ、国ごとに特徴もあり安易な一般化を許すものではなく、本来個別案件毎の詳細な条件の吟味が要求されるが、本稿では説明のため、敢えて、個別論・詳細な条件の吟味などを省略した一般化を試み、方法論の運用等詳細な論点を省略していることをお断りしておく。
ロイヤリティの独立企業間価格算定と企業グループ内 損益配分モデル
独立企業間価格算定方法
わが国の独立企業間価格算定方法は現在図表1の通りとなっている(注1)。基本三法という名称、対等の方法・準ずる方法というカテゴリー等はわが国独特のものであり、またこれ以外に”その他の方法”というカテゴリーが明確に定められている国や、方法論の優先度について特に序列がおかれていない国等もあるが、基本的には各国税制やOECD移転価格ガイドラインとも共通している。
 このうち、ロイヤリティの独立企業間価格算定において特に用いられることが多いのは、独立価格比準法(日本では正確にはそれと対等な方法。以下、「CUT」という)、利益分割法のひとつである残余利益分割法(Residual Profit Split Method:以下、「RPSM」という)、ときに取引単位営業利益法(Transactional Net Margin Method:以下、「TNMM」という)、その他の方法、である。
ここで、海外子会社からロイヤリティを回収する三つのケースを図表2に示す。
ケースAはいわゆる外−外取引であり、A国子会社は自ら製造販売を行い本社は商流には関与しない。Bは製品販売は本社経由、Cは本社は製品販売には関与しないが半製品を製造してA国子会社にてそれを加工・販売するケースである。
 無形資産の性格づけ
まずロイヤリティがどのような無形資産の対価であるかが明らかにされねばならない。ケースA、B、Cとも研究開発による無形資産は本社にあるので、ロイヤリティはその使用料となるが、その他の無形資産はどうか。例えば、実質的なマーケティングやそれに基づく生産管理機能が本社におかれており、子会社はいわば委託生産的な位置づけにあるものと判断されれば、ロイヤリティはその無形資産対価としての性格も帯び、その価値も反映されねばならず、実際の契約書にもその旨規定されることが必要となる。
ただし、いわゆる超過収益を生み出しうるようなものでなく、逆にいえば損益リスクを反映しない機能であり、仮に第三者に同様の機能を提供するとしたら収益に連動する対価でなくむしろ例えば固定的なサービス料をもって対価とすることが合理的なものであるような場合、ロイヤリティはふさわしくなく、収益連動のない対価設定が行われることが適切となる。そのような場合、本社が提供する役務提供取引等と同じく、多くは原価コストプラスを基準とする対価設定がなされることとなろう。
また、ケースBのような場合、完成品取引との関係も重要である。ロイヤリティと完成品取引が実質的には一体であり、取引としての採算自体一体としてなされているとすると、移転価格税制の観点からは、ロイヤリティと完成品取引を一体として、あわせて無形資産と有形資産の対価をなしているものと評価することも可能である。前述したように、移転価格税制の本質が所得移転の把握にあるので、このような場合にことさらロイヤリティと完成品を分別して評価すること自体不合理なものとなりうるのである。
ただし、源泉徴収税など他の税制、法規上はこの相違はより重要でありえ、移転価格税制以外の観点からの検討も必要となろう(注2)。もちろん、一体とみなされえない場合においては、完成品取引の移転価格は別途その独立企業間価格が算定されることとなる。
以上のような無形資産、すなわちロイヤリティの対価の性格づけは、方法論の選択、ひいては本社−A国子会社間の事業損益配分に大きな影響を及ぼす。
無形資産の所有者、使用者
誰が無形資産の所有者であるかは重要な判断事項であるが、移転価格税制においては、基本的には経済的実質が重視され、法的権利よりも、実際にその無形資産を自己の費用・リスクで開発した企業(例えば委託開発者も含まれる)が無形資産の実質的な所有者とみなされる。また使用者について、その使用権は実質所有権とみなされうるか否かについても、他税制等において重要な論点となりうる事項である。ただし、移転価格税制の実践においては、例えば独占的使用権の一定期間の対価と、同期間の所有権の対価とは、その経済的実質は同じであり、対価の算定、所得移転と利益配分に影響することが少ないことなどから、問題になる場合は多くはない。
独立企業間価格算定方法論の選択
次に、ロイヤリティの独立企業間算定方法の選択が決定的に重要である。各国税制、OECD移転価格ガイドライン等において、CUTは最も優先順位の高い方法論と位置づけられている。基本的には、比較対象となる第三者間取引(群)が特定できる場合は、その第三者間価格(群)と同水準のロイヤリティ(料率)が設定されていれば、そのロイヤリティを独立企業間価格とみなすものである。優先順位が高く、CUTが適用できる場合は、他の方法に優先して適用されねばならない。
ただし、CUTが適切となりうる比較対象取引の類似性の基準は相当厳しく、前述の無形資産の性格づけはもちろん他の取引条件・経済状況等高い類似性が要求されるので、実際にはCUTが適用しうるケースは極めて類似したグループ内取引があるような場合を除き、ごく限られたケースである。
ロイヤリティ算定にCUTが適用された場合、他の取引、例えば役務提供取引や、完成品取引(ロイヤリティと一体として評価されない場合)、半製品取引価格などは別途個別にその独立企業間価格が算定されることとなる。
CUTが適用できない場合、他の方法として、いわゆる超過利益を基準とした方法論が適用される場合が多い。代表的なものに残余利益分割法、RPSMがある。これが適用されるには、国外関連者双方、つまり本社とA国子会社双方に無形資産が存在していることが原則である。例えば研究開発において、子会社も製造開発をもって無形資産を形成しているような場合であり、いわば無形資産の共同開発モデル(注3)といえるものである。基本的には各国外関連者の最低限必要とされる利益、いわゆるノーマルリターンを算定し、それを両者の合算利益から差し引いた残りの”残余利益”を、両者の無形資産価値で分割して両者に帰属すべき損益を算定し、それが実現されるロイヤリティを独立企業間価格とするものである(注4)。無形資産の価値として、その無形資産を形成するための費用をもって代替する場合が多い(注5)。
RPSMは、その性格上、ロイヤリティ以外の取引も含めた複数の取引対価をあわせて算定することができるので、例えば図表2のケースB、あるいはCにおいて、製品取引対価とロイヤリティ対価を一体のものとして算定するの場合などにも適した方法論である。
RPSMは、算定過程において多くの仮定条件を必要とするがため恣意性が入りこむ可能性もあり、またその算定方法の本質上、損益の大小によって独立企業間価格が変化することとなっていわゆる“後づけ”的性格を持ちやすいことなど実務運用上種々の問題をもった方法論である一方、関連者双方の無形資産を相対的に評価できるので、多少なりとも各社で無形資産を分け持っていることが多い多国籍企業の現実とマッチし、前述したように複数の取引対価を一体として算定できる等の特徴もあり、ロイヤリティ評価に適用されることも多い。そしてその適用は、後述のように企業グループ間の利益配分に特徴的なモデルをもたらすこととなる。
TNMMは、国外関連者間取引と、機能・リスクの類似した第三者間取引(群)との間での、営業に関する損益を比較し(注6)、それが同程度の水準にある場合、国外関連者間取引を独立企業間価格と認める方法論であり、本年より日本においても適切な独立企業間価格算定方法のひとつとして導入された。有形資産取引においては、極めて多くのケースで使われうる方法論であるものの、無形資産取引においては、無形資産の性格、その価値において類似した取引を特定することが困難であり、適用されうるケースは限られたものとなる。例えば、A国子会社取引と機能・リスクが類似し、同様の無形資産を有する第三者間取引を特定できれば、その営業損益から、A国子会社の移転価格税制上“あるべき”損益が認知され、それからいわば逆算によりロイヤリティ価額が算定されることになる。
移転価格算定方法と損益配分モデル、キャッシュフロー
ロイヤリティの算定方法とそれに対応する損益変動のリスクをまとめたものが図表3である。
CUTが適用された場合、多くは料率が固定となるが、その結果、グループ企業間の損益配分は主な無形資産の所有者たる本社、その使用者たるA国製造子会社とも、事業全体の売上(ないし収益等)に比例するものとなり結果的には損益リスクを分け合うこととなる。
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本社 |
A国子会社 |
CUT(料金固定) |
損益変動リスク中 |
損益変動リスク中 |
RPSM |
変動大 |
変動小 |
TNMM |
直結して変動大 |
安定的 |
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一方、RPSMが適用された場合、CUTとは異なる損益配分モデルが実現されることとなる。前述のように、RPSMによるロイヤリティ算定は残余利益の大小に依存することになり、結果、利益が高い程高いロイヤリティ価額と評価されることになりやすい。結果的には、主な無形資産の所有者たる本社の収入たるロイヤリティの事業全体の損益に対する依存度が高くなり、その損益リスクも高いものとなる。すなわち、企業グループ間で、当事業に対するリスクテーカーとしての位置づけがより明確なものとなり、逆に主たる無形資産の使用者たるA国子会社は、事業全体からより安定した損益が配分されることとなる。移転価格税制の観点からは、無形資産が損益の源泉として、高い損益リスクを生み出すものである以上、その所有者がより高い損益リスクを負うべきであり、RPSMによる損益配分モデルはそれをより強く反映したものといえる。
TNMMが適用された場合は、さらに極端な損益配分となる。A国子会社取引、したがってその損益にTNMMを適用して”あるべき”損益を評価すると、残りの損益リスクはすべて本社に寄せられることになる。この場合、本社はほぼ事業全体の損益リスクを負うリスクテーカーに近い性格をもつものになる。
ただし、実践上の問題点として、算定方法上はありえても、現実にはロイヤリティでは、相手方企業の損失リスクまではカバーできないという点がある。前述のケースAの取引で、RPSM、あるいはTNMMが最適な方法論として選択されたとしても、全体の事業損益が悪い場合、例えば損失の場合、ロイヤリティの回収をストップすることは不可能ではないにしても、A国子会社の損失をカバーすることはできない。ところが、類似した条件下の取引でも、ケースBの形態の場合、あるいはケースCの場合、完成品(あるいは半製品)取引対価も一体化した場合、損失リスクを本社にいわば移転することも不可能ではなくなる。このような相違はある意味不合理ではあるが、実践上は損益配分モデルに大きな差をもたらす。
グループ企業キャッシュ・フロー最大化の観点からは、二国の実効税率が異なる場合、安定した損益リスクをもつ企業が相対的な低税率国に所在する場合、安定した実効税率低減が結果されることとなる。逆の場合は、大きな実効税率低減が結果される可能性が生ずるが、事業結果によっては当然逆の結果も生じることになる。この相違を重視し、無形資産そのもの、つまりロイヤリティの受け取りを、他国に移転する場合も見受けられるが、この場合、その無形資産の移転価格が独立企業間価格として適正に評価されているのか否か(注7)、が移転価格税制上の評価の対象となる。
(注1) |
”取引単位営業利益率法”は本年3月31日付官報にて発表の措置法政令をもって、わが国の独立企業間価格算定方法に加えられることになった。なお、本方法論の名称は政令中にては特に名づけられていないが、本稿にてはTNMM(Transactional Net Margin Method)の訳語として一般的な”取引単位営業利益法”を用いている。
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(注2) |
なお、ケースBの場合、役務提供費も、完成品取引の対価の一部に含まれているものと評価しうる場合もある。
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(注3) |
ただし、双方同種の無形資産である必要は特にはない。
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(注4) |
ここで独立企業間価格を毎期算定して適用する場合、ライフサイクル等に応じて通期で(したがって予想値をもとに)算定して、同一価格を適用する場合など運用はさまざまでありうる。残余利益分割法の適用には、この他タイムバリューの検討、経済利益の算出などさまざまな検討事項、運用方法があるが、ここでは簡略化して説明している。
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(注5) |
実際の算定は、費用を資産化したうえで、そのライフサイクルをもって償却し資産残高でもって評価する場合が多い。
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(注6) |
通常は、他の方法論と同じく、複数の比較対象取引を選定し、その利益率のレンジ(四分位法が用いられる)内に国外関連者取引が入るかどうかで判断する。なお、類似性向上のため、比較対象取引と国外関連者取引の相違の各種調整がなされることも、他の方法論と同じ。
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(注7) |
ここでの価格算定は、そもそものロイヤリティの現在価値算定、あるいは別途の方法による無形資産の価値そのものの価値評価が一般の事業価値評価(Valuation)の方法によって行われる場合が多い。移転価格税制の観点からは特に、もともとのロイヤリティ現在価値とかけ離れた評価は、独立企業間価格でないものとの疑義を受け易いものとなろう。 |
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