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![]() 2003年8月 | 1 | 2 | 日米新租税条約改正のポイントと実務への影響
日米租税条約は第二次大戦後、はじめてわが国が外国と締結した租税条約である。当該租税条約は1955年に発効した。その後、日米の経済関係の実情に適合した課税関係を確保する必要が認識され、1972年に改訂され、現行日米租税条約となっている。しかし、経済のグローバル化が急速に進んでいる今日の下、30年前に発効した現行日米租税条約では対応できない分野が多くなってきている。そのような状況を踏まえて日米両国が日米租税条約の改訂の話し合いを、近年進めてきた。そして、本年6月11日、日米新租税条約締結に関わる交渉において、両国間の基本合意に達したことが日米同時に発表された。
本稿では、戦略的パートナーである日米両国の緊密な関係強化に資することを意図した日米新租税条約改正のポイントと実務への影響を検討したい。
30年ぶりの改正 本年6月11日、日米新租税条約締結に関わる交渉において、両国間の基本合意に達したことが日米同時に発表された。租税条約は、国際的取引から発生する二重課税の回避および脱税の防止を目的にした条約である。財務省が発表した基本合意の内容は次の通りである。
今回の改正はおよそ30年ぶりの改正となるものであり、この間の両国を取巻く社会経済情勢の変化等を踏まえて、現行日米租税条約の内容を全面的に改めるものである。しかし、日米新租税条約文言および内部の細目は、年末近くまで公表されないもとの思料する。
日米間の配当の支払における源泉地国課税 OECDモデル条約(租税条約のグローバル・スタンダードと考える)では、居住地国(投資元)と源泉地国(投資先)の双方に配当所得の課税権を与えている。しかし、国際的二重課税を排除できる範囲に源泉地国の課税を制限している。 OECDモデル条約では、親子会社間配当の限度税率は5%であるのに対し、現行日米租税条約では、米国企業の在日子会社が親会社に支払う配当に日本が税率10%で課税、米国も日本企業の米国子会社の配当に同一条件で課税している。 日米の法人税の実効税率が40%前後になった現在、源泉徴収税率10%は高すぎる。仮に、日米両国の法人税の実効税率が40%とすると、配当に課せられる米国での税負担は46%(*1)となる。海外からの配当金は、受取配当金の益金不算入処理がないため、日本でも課税される。 海外で税負担をした配当金に対して、国際的二重課税を避ける手段が外国税額控除である。しかし、外国税額控除が取れる範囲は、日本の法人税の実効税率40%が限度となる。米国からの配当金は6%(=46%−40%)の二重課税が残ることとなる。新聞情報によれば「この現行日米租税条約の問題点を解消するため条約改正後は、親子間の支配関係が明確な一部の適格企業について免税とし、その他の企業でも税率を引き下げる」こととなった(日本経済新聞2003年6月11日)。 日米間の利子の支払における源泉地国課税 OECDモデル条約では、居住地国(債権者の居住地)と源泉地国(債務者の居住地)の双方に利子所得の課税権を与えている。しかし、国際的二重課税を排除できる範囲に源泉地国の課税を制限している。OECDモデル条約では、源泉地国の課税について10%の限度税率を定めている。現行日米租税条約では、利子に関する源泉地国の課税の税率は10%である。現行日米租税条約の源泉徴収税率はOECDモデル条約の制限税率の範囲内であるから、変更の必要がないのであろうか。 私見を述べれば、(1)10%という源泉徴収税率は日米の資金供給、資金調達の実情(経済大国一位と二位の日米の資金移動は相互補完的)から適正でなく、(2)現行日米租税条約では利子の範囲が多岐に渡るため、両国課税当局の利子判定に齟齬が生じている。以上を鑑みると、日米間の利子の支払における源泉地国課税の変更は必要である。 米国が他の主要先進国と結んでいる租税条約では、利子は相互主義により源泉地国免税の取扱いとなっている。また、課税関係を明確化することにより、条約締約国相互間の経済や文化などの交流を円滑かつ活発化することは租税条約の主な目的の一つである。この機会に、日米新租税条約では相互主義による源泉地国免税を導入して欲しい。日本側に利子課税を行う理由(日本が他の主要先進国と結んでいる租税条約と平仄を合わせる等)があると推測される。それゆえ、基本合意では、一定の主体の受け取る利子のみ源泉地国免税となっている。しかし、"一定の主体"が何かは明確にされていない。 利子の源泉課税があることにより、米国において活動する欧州企業に比して、日本企業は金融取引において競争上不利な立場に置かれている。基本合意で述べられている変更は、不利な立場を改善するには不十分ではないかと危惧している。 日米間の使用料の支払における源泉地国課税 OECDモデル条約では、居住地国(知的所有権を使用許諾する技術輸出国)に使用料所得の課税権を与えている。しかし、日本は技術輸入国の立場であったので源泉地国(技術輸入国)にも使用料所得の課税権を認めていた。現行日米租税条約では、日米間の利子の支払における課税と同様に居住地国と源泉地国の双方に使用料所得の課税権を与えている。また、源泉地国の課税の税率も利子と同様に10%である。現実に使用料の収支を考えると、日米間ではIT関連の商標・特許・著作権などの使用料(ロイヤルティー)が米国に対してとみに増えて、極端に支払超となっている。源泉地国課税は日本の短期的税収確保の点からは納得できる取扱いであった。 ”日本政府は二国間の租税条約で初めてロイヤルティーへの課税を撤廃する方針であり、一時的な税収減要因だが、今後予想されるアジアとの条約改正でも米国モデルを踏襲。日本企業が海外で使用料を稼ぐ「知的財産立国」を税制面から後押しする”との新聞情報がある(日本経済新聞2003年6月12日)。しかしながら、日本が締結した租税条約で使用料の源泉地国免税を認めた条約はパキスタンとの租税条約のみであって、多くは文化的使用料の源泉地国免税を認めたものである。以上の状況を鑑みると文化的使用料の源泉地国免税のみならず、工業的使用料の源泉地国免税が合意されたのか定かでない。 もし、合意の内容が文化的使用料の源泉地国免税であるならば、さらなる懸念が生じる。それは使用料の定義である。現行日米租税条約のみならず日本の国内法も使用料の定義が簡単過ぎて、課税上の取扱い(使用料か事業所得か、工業的使用料か文化的使用料か)を文理上明らかにすることが難しい。結果として、納税者に対して課税関係に関する多大の予見不確実性を生じさせている。特にソフトウェア関連取引の判定に資する租税条約上の定義を明確に規定することが必要となる。 OECDモデル条約を尊重 第二次大戦後、モデル租税条約の立案が求められた。OECDはモデル租税条約を作成し、順次改定している。また、OECD加盟各国は当該モデル租税条約を指針として自己の租税条約の改定を行っている。つまり、OECDモデル条約は租税条約のグローバル・スタンダードとなっている。OECD主要メンバーである日本と米国はOECDモデル条約を尊重することが責務であるが、諸般の事情から、およそ30年も日米租税条約は改定されなかった。日米租税条約が改定されない間に、本邦が締結した租税条約に入っていて、現行日米租税条約に入っていない条項の一つに"その他の所得"条項がある。 租税条約において事業所得、不動産所得、配当所得、利子所得、使用料所得等の課税ルールを定めても、取引・事業形態の複雑化は租税条約において定めた何れの所得にも入らない所得を生じさせる。これら所得を"明示なき所得、または"その他の所得"と言う。OECDモデル条約では、居住地国にのみその他の所得の課税権を与えている。よって、源泉地国には課税権がない。 現在、日米租税条約に規定のない所得については、各内国法による課税が日米租税条約と無関係に行われることとなり、その結果として、納税者は意図しない税負担を強いられる場合が生じている。特に、近年では金融派生商品等に見られるように取引の複雑化が進み、租税条約上規定される所得に当てはまらないものが増加している。したがって、租税条約適用による目的達成を確保し、円滑な国際間取引を担保するためには、"その他所得"条項を設ける必要がある。
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