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ニューズレター(税務関係)

2002年2月
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シリーズ 税務争訟の現状と課題 Page7

4.事例研究 日本興業銀行の不良債権処理をめぐる税務訴訟 − 1

バブルが弾けてから多くの金融機関は、抱える不良債権処理に追われてきたが、安易な有税処理をした結果、コスト高の不良債権処理を強いられることとなってしまった。

その結果、抜本的不良債権処理が大幅に遅れ、今日の雪だるま式に不良債権が増えたのである。そうした安易な不良債権処理を行わなかった銀行が日本興業銀行であった。

平成13年3月2日、同銀行の不良債権処理(平成8年3月期に行った無税処理)をめぐる税務訴訟では原告である興銀側が第一審で完全勝訴した。

今まで、税務訴訟は納税者が負けるものと考えられていたが、その前提を覆す画期的判決である。今回は日本興業銀行の税務訴訟を取り上げ、判決内容を検討したい。

本件は、住宅金融専門会社(住専)の一つである債務者、日本ハウジングローン(以下、「JHL社」)が、平成8年3月に著しい債務超過に陥り、遂に事業閉鎖に至ったため、その幹事母体行(*1)である原告(日本興業銀行)が、再建計画の経緯から政府の要請(平成7年12月19日閣議決定)および債務者からの免除依頼に応じて、3,670億5,500万円の債権全額を商法上帳簿から引き落し、さらに民法上も消滅(解除条件付債務免除(*2))させた上で会計処理(貸出金の直接償却)を行ったところ、これによる損失が税法上も平成8年3月期の損金に算入されるか否かをめぐり争われた事案である。

判決の争点とその要旨

第一審の判決は原告の主張を認め、日本興業銀行(原告)が勝訴した。当該訴訟において以下の二つが争点の中心であった(図表参照)。

税務訴訟における訴訟代理人または候補者に係る問題点


争点1:

本件債権は平成8年3月期末時点においてその全額が回収不能とは認められないと税務当局(被告)は主張した。

争点2:

本債権放棄に解除条件が付されているから当該事業年度末に本件債権放棄が確定しているとは認められないと税務当局(被告)は主張した。

それぞれの争点に関わる判決文は次のとおりである。

争点1:全額が回収不能か回収可能か

争点1"本件債権は平成八年三月期末時点においてその全額が回収不能とは認められない"に関する判決文を抜粋する。

債務の全額が回収不能か否かについては、法人税法が法人の合理的な経済活動によってもたらされる利益に着目して法人税を課していることからすると(法人税法4条)、合理的な経済活動に関する社会通念に照らして判断するのが相当である。……〈中略〉……

被告は回収不能の事実が不可逆的で一義的に限られる場合に限られると主張する。確かに、被告主張のような場合が回収不能に当たることは明らかであるが、このような場合に該当しない限り、必ず強制執行等の法的措置を講じて回収不能か否かを明かにすることを要求することは、納税者に対して無益な費用と時間を費やさせるものであって経済的にみて非合理的な活動を強いるものと評価せざるを得ない場合もあると考えられる。

すなわち、法的措置を講ずれば、ある程度の回収を図れる可能性がないとはいえない場合においても、債務者の負債および資産状況、事業の性質、債権者と債務者との関係、債権者が置かれている経済的状況、強制執行が可能な債務名義がすでに取得されているか否か、これを取得していない場合には、債務者が債権の存在を認めているか否かなど債務名義取得の可能性の程度やその取得に要する費用と時間、強制執行が奏功する可能性とその程度、法的措置をとることに対する債務者等の利害関係人からの対抗手段等の発生が予想されるリスクとの対比等諸般の事情を総合的に考慮し、法的措置を講ずることが、有害または無益であって経済的にみて非合理的で行うに値しない行為であると評価できる場合には、もはや当該債権は経済的に無価値となり、社会通念上当該債権の回収が不能であると評価すべきである。……〈中略〉……


これを本件についてみると、次のとおり、本件債権は、平成8年3月末までには社会通念上回収不能の状態にあったものというべきである。

当該回収不能の理由となるその要約を示す。

1.

平成8年3月末時点において、興銀がJHL社に対する債権を全額放棄したとしても、一般行および系統の債権の全額を返済することは不可能であったこと、

2.

興銀がJHL社に対して債権の全額を放棄せざるを得ないことは関係者の共通の認識であったこと、

3.

興銀がJHL社に対する債権を放棄しないことは、社会全体を敵に回すに等しく、もはや社会通念上許されない状態になっていたこと、

4.

仮に政府の住専処理策が成立せずJHL社を破産手続によって処理せざるを得ない事態が予想されたとしても、興銀が債権分配手続に参加することは、法的にみて不可能に近く、法的に可能であったとしても、興銀にとって有害かつ無益であって経済的にみて非合理で行うに値しない行為と言えること。……〈中略〉……


以上より、本債権はこのような手続を経るまでもなく、経済的に無価値になっていたものというべきである。

争点2:債権放棄の確定・未確定

争点2"本件債権放棄が確定しているとは認められない"に関する判決文を抜粋する。

債権放棄による損金算入の可否は、それが法人税法37条にいう無償による経済的利益の供与に該当するか否かという法解釈によるべき問題であり、課税庁の定める通達はこの解釈に適合する限度でのみ適法と評価されるのであるから、法基通所定の事由に該当しないことのみをもってその損金該当性を否定することは許されないのであって、前記のように、債権放棄の理由が経済的にみて合理的であって、これを損金と評価しないことが納税者に対して経済的にみて無益または有害な行動を強いることとなるなど不合理な結果を招くと認められる場合には、これを損金に算入するというのが法人税法の定めに合致した正しい法解釈というべきである。……〈中略〉……

損金算入の前提として、損失の確定を要するとしても、そこでいう確定とは、一般に税法上の権利確定主義という用語で使われる際の確定と同義のものと解すべきであって、抽象的な権利義務の発生にとどまらず訴訟において請求または確認し得る程度に具体的に発生していることを意味するものと解すべきである。

このような観点から本件債権放棄をみると、その内容は、前記事実関係からすると、民法127条第2項にいう解除条件に当たり、その意思表示後条件成否未定の間も債権放棄の法的効力は発生しており、その効力は、抽象的なものではなく、訴訟においても本件債務の不存在が確認される程度に具体的に発生しているのであるから、損失の発生は確定しているというべきである。……〈中略〉……

原告は本債権放棄によって、その債権相当額の損失を受けたものと評価すべきである。


(*1)

母体行とは

 

母体行とは「住専の設立に参画・出資して、中心的な役割を果たした銀行や企業のこと」と定義されているが、しかし、厳密には、親会社ともメインバンクとも異なり、母体行の責任体制等においても個別住専ごとに差違がみられる。すなわち、日本ハウジングローン株式会社と日本興業銀行、日本住宅金融と三和銀行、第一住宅金融と日本長期信用銀行に代表されるメインバンク・「基幹母体行」の責任体制は比較的明瞭であるのに対し、住宅ローンサービス=都銀7行、住総=信託銀行協会(7行)、総合住金=第二地銀協会(65行)、地銀生保住宅ローン=地銀協会(64行)および生保協会加盟25社というように「業態別共同機関」が母体行を形成している場合には、経営に対する最終責任が明確でなく(佐伯尚美「住専と農協」15〜23頁、129頁)、リーダーシップを発揮し得る立場の母体行も存在しなかったと思われる。

(*2)

解除条件付債権放棄とは

 

民法127条第2項によれば、「解除条件付法律行為は条件成就の時よりその効力を失う」ことになる。解除条件付債権放棄は「付された解除条件が成就の時、はじめて債権放棄の法律的効力を失うこととなる」。つまり、解除条件付債権放棄に基づく債権放棄の場合、当該債権放棄の時点では、債権放棄の法律的効果は有効である。本件の場合、「"JHL社を営業譲渡及び同社の解散登記"が平成8年12月末日までに行われないこと(つまり、政府の住専処理策が実現せず、法的整理手続きに移行した場合)」を解除条件として、興銀はJHL社に対する債権を平成8年3月29日に債権放棄をした。

付言すれば、政府の住専処理策に沿って、平成8年8月31日にJHL社と住宅金融債権管理機構との間で、平成8年10月1日に営業譲渡する旨の契約が締結され、その旨実施された。つまり、付された解除条件が成就しなかった。それゆえ、債権放棄の法律的効力は平成8年12月末日以前、以降にかかわらず、債権放棄の時点(平成8年3月29日)から有効であった。

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