
2002年2月
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シリーズ 税務争訟の現状と課題 Page2
1.最近の不服申立て・税務訴訟の状況にみる税務争訟制度の問題点 − 2
最近の不服申立て・税務訴訟の状況
わが国の税務争訟制度の問題点を考察する前提として、まず、最近の不服申立て・税務訴訟の状況を概観しておきたい。
(1) 課税庁による修正申告の慫慂(しょうよう)
納税者に対する税務調査によって発見された非違("法に反するの意味")事項については、税務署長による更正が行われるか、あるいは、課税庁の計算を基礎とした修正申告の提出が納税者に求められる。後者は、いわゆる「修正申告の慫慂("暗に求められるの意味")」と言われるものである。
筆者の税務調査への立会い経験から、課税庁の更正により申告税額の増額変更が行われるよりも、この課税庁の慫慂により修正申告が求められるケースが圧倒的に多い。このように、課税当局が修正申告を慫慂する背景には、更正処分を行おうとすれば、その根拠となる資料を確実に収集する必要があり、青色申告者に対する更正の場合には、厳格な理由の附記が要求されるということがある(法法130(2))。
また、納税者側でも、税務調査を早期に終了させ、調査への実務的・精神的負担、および延滞税等の経済的負担を軽減させたいとの思いから、安易に慫慂に応じてしまう場合が少なくない。
しかし、忘れてならないのは、更正を受けるのと自ら修正申告をするのとでは、納税者の基本的権利に与える影響が決定的に異なってくるということである。すなわち、更正を受けた場合には、不服のある非違事項について、不服申立てや税務訴訟を行うことができる。ところが、修正申告書を提出した場合には、原則としてこれが行えないのである。
また、増差税額の納期限、延滞税の計算の取扱いも、更正の場合に比べ、修正申告の場合の方が、納税者にとって不利なものとなっている。
修正申告するかどうかの判断は、納税者の任意であり、慫慂に応じる義務はない。したがって、納税者は、課税庁の非違事項の指摘に合理性がなく、その内容が質的・金額的に重要性を帯びている場合には、自己の正当な権利をあくまでも主張すべきなのである。
(2) 不服申立てと税務訴訟における救済状況
それでは、納税者が課税庁の修正申告の慫慂に応じることなく、更正等の処分を受けて、不服申立てや税務訴訟の段階に進んだ場合、現実にはどの程度、救済されているのであろうか。
図表2は、平成11年度の不服申立てと税務訴訟の救済状況をまとめたものである。
まず、不服申立てや訴訟が当該年度にどれだけ発生したか、または提起されたかをみてみよう。
不服申立てのうち、異議申立ての発生件数は5,674件、審査請求の発生件数は3,068件、そして、訴訟の提起件数は第一審、控訴審、上告審あわせて376件である。
平成13年第二回の国税審議会の説明資料によれば、平成11年度の納税者数は、所得税が740万人、法人税が286万社、相続税が14万人、消費税が237万人で、単純合計すると、1,277万の納税者がいることになる。この全納税者数と比較すると、異議申立ての発生件数はその0.04%、審査請求のそれは0.02%、訴訟提起件数はほとんどゼロに等しく、極めて少ないといえよう。
このように、わが国で、不服申立て数、訴訟数が少ない原因としては、前述のように修正申告の慫慂に納税者が応じる傾向があること、納税者が救済手続に係る精神的・経済的・時間的負担を避ける傾向にあることがあげられる。
さて、今度は、処理状況をみてみよう。まず、不服申立てのうち、異議申立ての処理済件数は5,705件で、このうち、納税者の請求が一部または全部認められた、すなわち、納税者が救済された件数は684件で、全体の12.0%となっている。
次に、不服申立てのうち、審査請求の処理状況をみると、処理済件数は3,003件である。このうち、納税者の請求が一部または全部認められた、すなわち、納税者が救済された件数は431件で、全体の14.4%である。
さらに、税務訴訟の段階においては、第一審、控訴審、上告審あわせ、終結したのは430件である。これを処理態様別にみると、原告が一部または全部勝訴した件数は26件で、全体の6.1%にすぎない。
納税者が、課税庁の修正申告の慫慂に屈することなく、更正処分をあえて受け、不服申立てや税務争訟に打って出るには、確固とした理由があるはずである。それにもかかわらず、救済割合が不服申立ての段階で10%台、税務訴訟の段階では10%未満という状況をみれば、税務争訟制度が機能し、救済が十分に行われているとは言いがたいように思われる。
このように不服申立て・税務訴訟の救済割合が小さいことは、当然に、納税者を制度利用から遠ざけるであろう。はじめから負けがわかっている闘いは避けたいというのが納税者の人情である。
なお、審査請求の段階では救済割合はやや大きいが、これは納税者が、租税の専門家である税理士を代理人に選任し、その支援を全面的に仰げることも影響しているのであろう。もっとも、平成13年の税理士法改正により、平成14年4月1日以後においては、税務訴訟において、税理士が補佐人として出廷陳述することが認められることとなった。
よって、今後は、納税者の個別事情を理解し、租税法に精通した専門家が出廷して陳述を行うことで、裁判官を十分説得し、訴訟のレベルでの納税者救済割合が向上することが期待される。
(3) 国際課税に係る納税者の権利救済状況
ここで、国際課税の分野にも目を向けてみよう。
平成12年11月の国税庁の発表によれば、図表3のように、国際課税の分野での、非違件数は、海外不正脱漏所得について161件、タックス・ヘイブン税制に係る申告漏れについては38件、移転価格税制に係る課税所得については38件である。非違金額に注目すれば、それぞれ359億円、29億円、454億円であり、移転価格税制に係る非違金額は、一件あたり非常に多額なものとなっている。
(図表3) 国際課税の状況 (平成11年度)
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件数 (件) |
金額 (億円) |
海外不正脱漏所得税金額の把握状況 |
161 |
359 |
タックス・ヘイブン税制に係る申告漏れ課税対象留保金額の把握状況 |
38 |
29 |
移転価格税制に係る課税所得金額の把握状況 |
38 |
454 |
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(出典)
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国税庁ホームページ / 発表資料「平成11事務年度における調査課税保管法人に係る法人税の課税実積について」
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周知のように、移転価格とは、企業と国外関連者との取引価格を言う。移転価格は、税法上、客観的に見て独立企業間価格であることが求められる。しかし、その判定をめぐっては、納税者と課税当局との間で非常に見解が分かれやすい。また、その算定方法の適用如何によって、課税所得が大きく異なる可能性が高い。
このような移転価格の特殊性から、移転価格に係る更正処分の可能性は高く、その金額は多額となりやすい。また、納税者にとっては、取引価格の修正は、その利益に多大な影響を与えることから、他の所得の更正と比べて、納税者も積極的に権利救済制度を利用する傾向にある。
ここで、移転価格課税に関しても、他の課税と同様、納税者の権利救済制度として、不服申立てと税務訴訟が用意されている。また、移転価格課税のように、国際的取引で二重課税の恐れが生じる場合には、「相互協議」の制度を利用することも可能である。
相互協議とは、納税者と国外関連者の各課税国の税務当局間で行われる、二重課税排除のための協議手続である。
筆者が関わってきたケースでは、移転価格に関する更正がなされ、それを不服として企業が救済を求める場合、異議申立てと同時に相互協議の申立てを行うことが多い。相互協議に関しては、図表4からもわかるように、年々の発生件数が処理件数を上回り、なかなかタイムリーに解決されていないのが現状である。
(図表4) 相互協議一発生・処理・繰越件数
年度 |
発生件数 |
処理件数 |
繰越件数 |
平成 9 年 |
63 |
40 |
106 |
平成 10 年 |
44 |
32 |
118 |
平成 11 年 |
69 |
57 |
130 |
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(注) 事案は移転価格課税、事前確認、その他である
(出典) 国税庁ホームページ / 発表資料「相互協議事案 事務年度別発生・処理・繰越件数」
移転価格の事後的救済方法としては、税務訴訟も考えられるが、時間だけでなく、コストの負担もかなり大きいものである。筆者は、これらの欠点を補う移転価格問題の解決方法として、国際的な仲裁・調停の制度を導入することを提唱したい。
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