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ニューズレター(フィナンシャル関連)

2004年2月
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事業再生戦略のポイント Page4

4. ブリティッシュエアロスペース British Aerospace

ハーレーダビッドソンは、トップダウン型の組織から従業員参加型の組織に変革した(「組織・企業文化の再構築」)事例ですが、ブリティッシュエアロスペースは、「多角化」と「選択と集中」の二つの戦略(「製品・ターゲット市場の見直し」)を使い分けた事例です。

ブリティッシュエアロスペースは、ビッカース、ホーカーシドレー等のイギリスの主要航空機メーカーが1977年に国有化され発足した会社です(図12)。その後、ブリティッシュテレコムやロールスロイス等と同様に、1981年にサッチャー首相の経済政策(サッチャリズム)のもと民営化されました。ブリティッシュエアロスペースの主な事業は、兵器・軍用機といった軍需産業と民間航空機事業でした。

(図12) ビジネスの概要

ビジネスの内容

軍用機・兵器、民間航空機、宇宙関連製造

売上構成比(1985年)

軍用機36%、兵器35%、民間機24%、宇宙開発5%

主力商品

戦闘機、ミサイル、近距離ジェット機等

発足

1977年国営企業として発足、1981年民営化

競合他社

ボーイング、ロッキードマーチン、EADS


1985年の売上構成比(図13)を見ると、全体の売上の7割を軍需部門が占め、2割程度が民間航空機事業となっています。軍需部門は政府に納入することからほぼ独占状態でしたが、民間航空部門については、米国企業等との競争にさらされ、全体の足を引っ張っていました。そこで、1985年以降、事業多角化による相乗効果・規模のメリットを享受するために、多くの事業を買収していきます。1987年には、オランダの建設会社であるバラストネダムグループを買収しました。これはサウジアラビアにおける軍事プロジェクトの受注を企図したものだと言われています。また、同年、イギリスの兵器製造所であるロイヤルオードナンスを買収して輸出比率を高め、翌1988年には、自動車メーカーであるローバーをイギリス政府による巨額の補助金付で買収しました。これは、当時、ブリティッシュエアロスペースの航空・宇宙エレクトロニクス技術を自動車生産に応用するとともに、ローバーの蓄積した大量生産技術を航空機生産に応用することで性能向上とコストダウンを図ることを意図していました。これらの買収の結果、ブリティッシュエアロスペースの売上高構成比は、1988年において非常に多様化します。

(図13)

ブリティッシュエアロスペースの1985/1988年売上構成比の比較


こうした多角化戦略により、ブリティッシュエアロスペースは1983年から1988年にかけて大きく売上を伸ばし、安定的に利益を計上しています(図14)。しかし、1980年代後半〜1990年代前半の冷戦終結により、今度は軍事部門が伸び悩んできました。また、民間航空機部門も引き続き外国企業の攻勢を受けて低迷し、大型買収案件であったローバーも業績の回復が遅れ、大きく足を引っ張ることになりました(図15)。

(図14)

(図15)

ブリティッシュエアロスペースの売上高と営業利益率の推移 ブリティッシュエアロスペースの売上高と営業損益の推移


このような事態に際し、ブリティッシュエアロスペースの経営者は、これまでの戦略を転換し、「選択と集中」を進めることとしました。まず、通信事業を営んでいたマイクロテルコミュニケーションという子会社を1991年に香港の通信事業会社へ譲渡します。また、ブリティッシュエアロスペースのメリットが活かせない小型航空機・小型ジェット機部門も他会社に譲渡し、前述のバラストネダムも売却して、事業のスリム化を図りました。そして1994年にはローバー株式の全てをBMW社に譲渡します。 このような選択と集中を進めることにより、ブリティッシュエアロスペースの売上構成比は、図16のとおりとなりました。これに伴って業績も回復しました。図15において、ブリティッシュエアロスペースの売上高および営業利益率がV字型を描いていることからもわかると思います。

企業の戦略として多角化を進めて業容を拡大すべきか、または選択と集中を進めてコア事業の競争力を強化すべきかというのは、極めて高度な経営判断です。これを読み違えると成長の機会を逃したり、または業績低迷に陥ったりすることがあります。ブリティッシュエアロスペースの事例では、コア部門を取り巻く市場の環境をよく把握し、適切な「製品・ターゲット市場の見直し」を行うことができたと言えるのではないでしょうか。

(図16)

ブリティッシュエアロスペースの1988/1996年売上構成比の比較


5. まとめ

冒頭に申し上げました事業再生戦略においては、何が不振の原因であるかを正しく特定することが重要です。3つの事例に共通するのは、それぞれの経営者が不振の原因を適切に捉え、何を改善すべきか(キーポイント)を的確に把握し、対応する最善の施策を講じたということだと思います。コンチネンタル航空の事例では、従業員のモチベーション・士気を高めることがキーポイントであり、ハーレーダビッドソンの事例では、マーケットの変化に対応する柔軟な組織体制作りが持続的な成長のためのキーポイントでした。どのように不振の原因を捉えるか、またはその原因に対してどのように対処すべきかについて公式はありませんが、こうした事例を通じて、みなさまが経営を考える際のヒントや何らかの示唆をご提供することができれば幸いです(図17)。

(図17)

事例のまとめ


【参考文献】
Continental Airlinesホームページ
Continental Airlines Annual Report
HARLEY-DAVIDSONホームページ
HARLEY-DAVIDSON Annual Report
「AIR TRAVEL CONSUMER REPORT」U.S. Department of Transportation
「MISHANDLED BAGGAGE REPORTS」U.S. Department of Transportation
ゴードン・ベスーン、スコット・ヒューラー著、仁平和夫訳『大逆転!コンチネンタル航空−奇跡の復活』日経BP社
リッチ・ティアリンク、リー・オズリー著、柴田昌治解説、伊豆原弓訳『ハーレーダビッドソン経営再生への道トップダウンから全員参加型経営へ』翔泳社
高橋雄一「ワールドビジネスNOW ブリティッシュエアロスペース−航空機と車の合体青写真」日経産業新聞1988年4月7日
高橋純夫「英BAeリストラで体質強化」日本経済新聞1989年8月21日
高橋純夫「BAe 国際通信事業に進出」日経産業新聞1990年7月17日
井上裕「欧米巨大企業の研究BAe下 組織改革、きょう実施 「防衛」核にコングロ化」日経産業新聞1993年7月1日
井上裕「英ローバーの売却‘解禁’BAeはホンダに秋波?」日本経済新聞1993年8月13日
田中博子「事業絞り込み 建設事業から撤退」日経産業新聞1993年10月16日
井上裕、三由亜紀子「あえぐ欧州自動車産業G ローバー 域内の“安全弁”模索 ホンダ離れ?独自戦略着々」日経産業新聞1993年12月7日
田中博子「ローバー、BAe、BMW会見 財務面で魅力/本田を十分理解/補完し合う」日経産業新聞1994年2月2日
井上裕「独BMWのローバー買収 『三方得』の欧州勢 本田、再建『果実』得られず」日本経済新聞1994年2月2日
上野浩子「全オレンジ株放出へ」日本経済新聞1999年6月28日
山下真一「米航空大手 債権の行方 月内ヤマ場」日本経済新聞2003年4月14日
田中昭彦「米ハーレー ソフト路線で成長加速」「グローバル経営 『暴走族』『無法者』のイメージ一新」日本経済新聞2003年9月8日
山下真一「米コンチネンタル、難局脱出 人材重視で業績を回復」日本経済新聞2003年10月27日

執筆者:

中尾 哲也 (株式会社KPMG FAS シニアマネージャー)

KPMGのリストラクチャリング部門のシニアマネージャー。経営不振企業や経営破綻企業に対して、再建計画の策定にかかるアドバイスや、リファイナンス・資産売却・M&A等の支援を行っている。過去には、百貨店、ホテルチェーン、レストラン、ゴルフ場、商社、スーパー、メーカー等の業種に携わり、民事再生法や会社更生法等の法的整理手続下にある企業へのアドバイスも手がける。また、金融機関に対して不良債権のワークアウトや売却に関するアドバイスを行う一方、投資家(買い手)に対しても不良債権への投資に関するアドバイザリーを行っており、企業再生を促進する様々な立場でのサービスを経験している。東京大学法学部卒。コーネル大学不動産学修士号(不動産金融専攻)。

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