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![]() 事業再生戦略のポイント Page4 4. ブリティッシュエアロスペース British Aerospace ハーレーダビッドソンは、トップダウン型の組織から従業員参加型の組織に変革した(「組織・企業文化の再構築」)事例ですが、ブリティッシュエアロスペースは、「多角化」と「選択と集中」の二つの戦略(「製品・ターゲット市場の見直し」)を使い分けた事例です。 ブリティッシュエアロスペースは、ビッカース、ホーカーシドレー等のイギリスの主要航空機メーカーが1977年に国有化され発足した会社です(図12)。その後、ブリティッシュテレコムやロールスロイス等と同様に、1981年にサッチャー首相の経済政策(サッチャリズム)のもと民営化されました。ブリティッシュエアロスペースの主な事業は、兵器・軍用機といった軍需産業と民間航空機事業でした。 (図12) ビジネスの概要
1985年の売上構成比(図13)を見ると、全体の売上の7割を軍需部門が占め、2割程度が民間航空機事業となっています。軍需部門は政府に納入することからほぼ独占状態でしたが、民間航空部門については、米国企業等との競争にさらされ、全体の足を引っ張っていました。そこで、1985年以降、事業多角化による相乗効果・規模のメリットを享受するために、多くの事業を買収していきます。1987年には、オランダの建設会社であるバラストネダムグループを買収しました。これはサウジアラビアにおける軍事プロジェクトの受注を企図したものだと言われています。また、同年、イギリスの兵器製造所であるロイヤルオードナンスを買収して輸出比率を高め、翌1988年には、自動車メーカーであるローバーをイギリス政府による巨額の補助金付で買収しました。これは、当時、ブリティッシュエアロスペースの航空・宇宙エレクトロニクス技術を自動車生産に応用するとともに、ローバーの蓄積した大量生産技術を航空機生産に応用することで性能向上とコストダウンを図ることを意図していました。これらの買収の結果、ブリティッシュエアロスペースの売上高構成比は、1988年において非常に多様化します。 (図13)
こうした多角化戦略により、ブリティッシュエアロスペースは1983年から1988年にかけて大きく売上を伸ばし、安定的に利益を計上しています(図14)。しかし、1980年代後半〜1990年代前半の冷戦終結により、今度は軍事部門が伸び悩んできました。また、民間航空機部門も引き続き外国企業の攻勢を受けて低迷し、大型買収案件であったローバーも業績の回復が遅れ、大きく足を引っ張ることになりました(図15)。
このような事態に際し、ブリティッシュエアロスペースの経営者は、これまでの戦略を転換し、「選択と集中」を進めることとしました。まず、通信事業を営んでいたマイクロテルコミュニケーションという子会社を1991年に香港の通信事業会社へ譲渡します。また、ブリティッシュエアロスペースのメリットが活かせない小型航空機・小型ジェット機部門も他会社に譲渡し、前述のバラストネダムも売却して、事業のスリム化を図りました。そして1994年にはローバー株式の全てをBMW社に譲渡します。 このような選択と集中を進めることにより、ブリティッシュエアロスペースの売上構成比は、図16のとおりとなりました。これに伴って業績も回復しました。図15において、ブリティッシュエアロスペースの売上高および営業利益率がV字型を描いていることからもわかると思います。 企業の戦略として多角化を進めて業容を拡大すべきか、または選択と集中を進めてコア事業の競争力を強化すべきかというのは、極めて高度な経営判断です。これを読み違えると成長の機会を逃したり、または業績低迷に陥ったりすることがあります。ブリティッシュエアロスペースの事例では、コア部門を取り巻く市場の環境をよく把握し、適切な「製品・ターゲット市場の見直し」を行うことができたと言えるのではないでしょうか。 (図16)
5. まとめ 冒頭に申し上げました事業再生戦略においては、何が不振の原因であるかを正しく特定することが重要です。3つの事例に共通するのは、それぞれの経営者が不振の原因を適切に捉え、何を改善すべきか(キーポイント)を的確に把握し、対応する最善の施策を講じたということだと思います。コンチネンタル航空の事例では、従業員のモチベーション・士気を高めることがキーポイントであり、ハーレーダビッドソンの事例では、マーケットの変化に対応する柔軟な組織体制作りが持続的な成長のためのキーポイントでした。どのように不振の原因を捉えるか、またはその原因に対してどのように対処すべきかについて公式はありませんが、こうした事例を通じて、みなさまが経営を考える際のヒントや何らかの示唆をご提供することができれば幸いです(図17)。 (図17)
【参考文献】 執筆者: 中尾 哲也 (株式会社KPMG FAS シニアマネージャー) KPMGのリストラクチャリング部門のシニアマネージャー。経営不振企業や経営破綻企業に対して、再建計画の策定にかかるアドバイスや、リファイナンス・資産売却・M&A等の支援を行っている。過去には、百貨店、ホテルチェーン、レストラン、ゴルフ場、商社、スーパー、メーカー等の業種に携わり、民事再生法や会社更生法等の法的整理手続下にある企業へのアドバイスも手がける。また、金融機関に対して不良債権のワークアウトや売却に関するアドバイスを行う一方、投資家(買い手)に対しても不良債権への投資に関するアドバイザリーを行っており、企業再生を促進する様々な立場でのサービスを経験している。東京大学法学部卒。コーネル大学不動産学修士号(不動産金融専攻)。 |